インセプション
人の夢に侵入する。
観る前はなんなく『パプリカ』のパクリじゃねーのか疑惑を抱いていたが、
そんな生ぬるいものではなかった。
練りこまれて仕掛けがいっぱいのストーリーはけっこうツボで、とても楽しめた。
それ以上にびりびりと感じたのが、映像表現への執念めいたもの。
「ぐりんぐりん回転するホテルの廊下で、無重力状態で空中で殴り合い」とか、
言葉で表すとほとんど意味不明の状況をほんとに映像化していてぶっ飛ぶ。
頭の中にこんな映像を描くのもすごいし、
それを映像におとしこむのが何よりすごい。
どうやって撮ってるんだろう。興味がわきまくる。
「無重力でふわふわ浮いた仲間4人の体を空中で回転させてコードでぐるぐる巻きにする」とか。
こうやって書いてもさっぱりわからない、やはり。
そういえば『ローラーガールズ・ダイアリー』のエレン・ペイジがここにも。
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ヒアアフター
クリント・イーストウッドの新作。
死んだら人はどうなるの?というある意味素朴な問いかけが柱で、
結構あっさりと死後の世界がある前提で話が進む。
意外と言えば意外な感じがする。
身近に臨死体験した人でもいたんだろうか。
まったく別の場所にいる3人の物語が同時並行で進んでいくので、
やはり一人ひとりに割かれている時間がちょっと少ないのだろうか。
『グラン・トリノ』とかの方が人に迫力があった気はする。
でも、失いかけた人生を取り戻そうとする人が「料理教室に通う」というのは
なにか象徴的な感じがした。
料理をつくるという行為が精神の回復に向かう行為というのはなんとなくわかる。
かつて修士論文の口頭試問で「ボロボロにされた」と言っていた友人はその後、
出汁を取るところから始め、延々と(それまでまともにやったことのない)料理をし続けたそうな。
一応立ち直っていた。
もうひとつ、「それまでそこにいた人がいない」という表現が際立っている。
それは死に限らず、去ってしまうということも含め。
そこはイーストウッドのひとつのワザだと感じる。

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誘拐
本田靖春の『誘拐』を一気に読了。
ノンフィクションの金字塔という触れ込みに偽りなしで、しびれた。
題材は1963年の幼児誘拐事件で、発生から2年後の解決までを、広く深く事実を掘り起こしながらたどっている。
いったいどれだけの人に会って話をきいたのか、くらくらする思いだ。
捜査員、犯人の周辺人物などなど、ひとつひとつの会話、状況、仕草がこれでもかと再現されている。
文庫の帯には「小説を超える事実」という文言があるのだが、
本当に小説を読んでいるかのような読み口。
でも全部事実。げっぷ。
犯人が自供し、担当の刑事が電話で上司に報告するくだりは目頭が熱くなった。
ひとつピンと来たのは、高村薫はこの作品に強く影響を受けているのではないかということ。
犯人かもしれない男をずるずると匿ってしまう女というモチーフや、いくつかの単語づかい(高村薫は「隠微」という言葉を結構多用する)。
高度経済成長に取り残された、あるいは逆に最底辺層として取りこまれ、打ち捨てられた東北の貧農。その鬱積した負の感情。
こうした要素は、たまたま読んだ二つの作品(『マークスの山』『レディ・ジョーカー』)に
けっこうはっきりと表れているような気がする。
淡々とした硬質な文章も、理念として通ずるものがあるように思う。

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オーケストラ!
かつての天才指揮者が、かつての楽団員を集めて偽のボリショイオーケストラを名乗ってパリ公演をするという結構無茶な話。
物語の背景として、かつてロシアにあったユダヤ人排斥の歴史を響かせつつ。
数十年ぶりに集まった音楽家たちがリハなしで協奏曲を演奏するとか、
はっきり言ってファンタジーだ。
それでも、なんだか「アリ」だと思わせる魅力のある映画でもある。
演奏という言葉ではないものによって、
すでに去った人間の存在がありありと蘇る瞬間が訪れるというモチーフ。
自分が何者で、過去に何があったのかが、演奏を通じてすべて了解されるという瞬間。
託された楽譜に、情熱や無念、すべてが詰まっている。
それもまたファンタジーなのだけど、心打たれるものがある。
『ヒカルの碁』という漫画があるのだが、
そこでも実は同じモチーフがある。
ヒカル君は過去の碁の天才の亡霊から碁を学ぶのだが、
その亡霊が去る時がやってくる。
もはやそこには深いきずながあって、別れはとてもつらいものになるのだが、
彼はすでに亡霊の碁の打ち筋を自らのものにしている。
それはすなわち、その打ち筋を編み出した人の記憶が「技術」という形で生き続けているということにほかならない。
受け継がれる技術の歴史というのは、人の生の記憶の連なりだといこと。
それを知る瞬間が物語の白眉で、その後の展開は個人的には蛇足だと思う。
(なんか韓国の人達と対戦する展開とか。連載漫画の引き延ばしの悪習だ)
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目標とか
だいぶ前についに三十歳になった。なんとなく目標とか立てた方がいいような気がしつつも立てあぐねていたのだが、ふと決まって腹に落ちた。
時間を惜しんでちゃんと勉強する。具体的にはノンフィクションを中心にちゃんと本を読む。それにより、一、引き出しを増やす、二、この仕事を志した初心に繰り返し立ち戻る機とする、三、自分なりのテーマを見出すきっかけとする。
あとは、観たもの、聴いたもの、読んだものについて、簡単でもいいから感想をきちんと字に落とし込む。(すでに何個かためてしまっているが)
楽器の練習を再開する、というのも考えていたが、これは順位としては下げよう。でもちょっとはやろう。
感想メモ3つ!
『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』
「朝起きたら記憶がない」という世の中的にはよくあることをうまくプロットに織り込んだ。
世の中的にはよくあるけど俺には縁がありませんな。
けど映画は下品でよくできていてなかなかおもしろかった。
手元に残された手がかり(なぜかホテルの部屋にトラ、見知らぬ赤ちゃんetc.)をたよりに、
ひとつひとつ昨夜の自分たちの足取りを解明していく、
ある意味サスペンス的な仕立ても効果的。
それでいて男同士の「悪友」感覚が物語の軸になっているので、
じんわり染みるものもあってとてもよい。
終わったら全部笑い話だよなー、的な感覚もよいね。

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『ローラーガールズ・ダイアリー』
ずっと観たいと思っていたのをやっと観れた。
ぜったい面白いに違いないと思っていたがやっぱりとてもよかった。
なぜならドリュー・バリモアが監督だから。
彼女を評価する人はいろいろいるだろうが、
個人的な評価ポイントは『ドニー・ダーコ』のプロデューサーをしていたこと。
「脚本にほれこみ、出演とプロデュースを担当」とどっかで読んだが、
要するにバックボーンのない若い監督(リチャード・ケリー)の才能をいちはやく見出し、
なんとしても世に出さねばならんと思い、姐さんが一肌脱いだ、という感じだと理解している。
出演者としてもスゲー良かった。
そんなわけで、この『ダイアリー』も通じるところがあって、実によかった。
田舎でどうしようもなくなっている女子たちが「道」を見つける物語、とでもいうのか。
単なる青春譚、成長物語でもあるんだけど、
やっぱりそれを心に響かせる演出ができるかどうかって監督と脚本家の感性と技量だよなあ。
もちろん俳優の演技と。
主演はエレン・ペイジで、はじめて出演作を見た(たぶん)けど、
思春期女子のうわつきとか真剣さとか成長とか、そんなものをよく表現していたように思う。
まあ、女子のことはあまりわかりませんが。
ともかく観れてよかったよかった。
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『チャイルドプレイ』
たまたまWOWOWでやっていたので録画。
子どもの頃にスゲー恐怖した記憶だけが残っていた。
まあ大人になって観ればそこまででもあるまい、技術的にも昔の映画だしな。
と思ってなんとなく観ていたらやはりスゲー怖かった。
人形が襲ってくるのってなんであんなに怖いんだろうか。
人を模したものが持つ根源的な不気味さを巧みに利用しているんだよなあ。
そこまでやっても息の根を止められないのか!みたいなしぶとさもまた恐怖。
カットの切り替えとかも結構丁寧な印象で、
ヒッチコックみたいな古典的な印象もある。
ドアからナイフが突き出てくる恐怖描写なんかはシャイニングっぽくもある。
ベタな安いホラーかと思っていたが、そんなことは全然なく、かなりつくりこまれた印象。
というか、黒魔術で魂を移す的な設定だしおおざっぱといえばおおざっぱなのだが、
ひとつひとつの恐怖演出はなかなか心を逆なでする細やかさが行き届いてる。
なんか黒魔術って映画のプロットではやった時期があったんだろうか。
ほかにもなんかそんなものを見たような。昔。
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箱庭、小宇宙
長い中断期間を経ながら『レディ・ジョーカー』読了。
何ヶ月かかってんだか。
けど下巻は三日くらいで読んだ。
「好きな作家」とかはとくにいなかったのだが、
今後は高村薫と回答することにしよう。
と、思えるくらいの作品だった。
作家を含む表現者の仕事は、
まず何より「世界を表すこと」だ。
誰もが感じているけどうまく言葉にできずにいることを言葉にしてみせたり、
あるいは誰も気づいていないけど大事なことを指差してみせたりすること。
しかも、世界のわけわからない豊穣さとか猥雑さを
単純化によって損なってしまわない仕方で。
高村薫はプロットの複雑な構築も見事なのだけど、
なにより現代の社会や組織の中で生きる人間の鬱屈や空回りや爆発、
そんなものを掬い取るのが異様にうまい気がする。
虚無や無関心がくるりと対象を欠いた憎悪や激発に裏返るさまとか。
それって本人も含めて誰にも「なぜ」が説明できない現象なんだけど、
でも現代の社会を語る上でとても重要な現象だ。
それが凝縮されているのがラストの山村の場面。
ラストなので中身には言及できないけど、
事件に関わった人たちがかたちづくるひとつの「家族」。
憎悪でもってそこにある無垢を守ろうとする守り人。
それはひとつの小さな箱庭のようでいて、
作品世界、ひいては現代社会のある部分を凝縮した小宇宙のような圧力もある。
俺は映画を評価するひとつの基準に、
「映像でしかできない仕方で、大事な何ごとかを伝える場面があるか」というのがある。
『レディ・ジョーカー』のラストシーンは、
小説におけるそんな場面だったと思う。

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